東京高等裁判所 昭和26年(う)4630号 判決
原審第二回公判調書の記載によると、原審弁護人並びに被告人が検察官の請求した所論供述調書の謄本の証拠調に対してその証拠調の請求には異議はないがそれを証拠とすることには同意しない旨を述べたことが明白であるが、同記載によると原審の裁判官が右の証拠を採用しそれについて証拠調手続が行われたことが明白である。されば同公判廷においては刑訴法第三〇九条第三項によつて決定をしなければならない異議の申立は結局なされなかつたこととなるから、原審の審理には論旨(1)に謂うような刑訴法第三〇九条違反の廉は存しない。しかし同法第三二一条第一項第二号の書面には供述者の署名若しくは押印のあることを要することは同条の明規するところであるから供述者の署名も押印もない右謄本はその要件を充たさないことは明白である。加之同条項号に規定している「供述を信用すべき特別の情況の存すること」を認めるためには、右の書面が原本たることを要するものと謂わなければならない。而も右の謄本が同法第三二三条第一号に該当する書面又は同法第三一〇条によつて提出することのできる謄本でないことは同各条の解釈上明白であるのみならず、それを証拠とすることに相手方が同意しなかつたことは前示公判調書の記載により明白である。従つて右の謄本は証拠能力のないものであるから、それについて証拠調をなし、それを証拠に採用した原判決には結局訴訟手続に違背した廉があるものと謂うべく、それが判決に影響を及ぼすことも亦明らかである。
論旨は理由がある。